音韻論
以下の説明では、音声記号にはIPA(国際音声記号)を基にした音声記号を使用する。
“[]” で囲ったものがIPAの精密な音声表記で、“//” で囲ったものはヴェッセンズラン語の音韻論に準じた音素表記である。
子音
\ | 両唇 | 唇歯 | 歯/歯茎 | そり舌 | 後部歯茎/硬口蓋 | 軟口蓋 | 声門 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
破裂音 | 無声 | p | t | (ʈ) | k | |||
有声 | b | d | (ɖ) | ɡ | (ʔ) | |||
前声門化 | ʔ͡p | ʔ͡t | (ʔ͡ʈ) | ʔ͡k | ||||
破擦音 | (t͡ɕ) | |||||||
摩擦音 | 無声中央 | f | s | (ʂ) | ɕ | x | ||
無声側面 | ɬ | (ɭ̝̊) | ||||||
有声 | z | (ʐ) | ʑ | ɦ | ||||
鼻音 | m | n | (ɳ) | ɲ | ŋ | |||
はじき音 | (ɾ) | ɽ | ||||||
接近音 | 中央 | ʋ | ð | (ɻ) | j | |||
側面 | l | (ɭ) |
説明
破裂音は有声・無声・前声門化の3系列の対立がある。前声門化破裂音は語頭には現れない。
無声破裂音 /p/, /t/, /k/ は /s/ の後でない音節頭にある時、帯気する ([pʰ], [tʰ], [kʰ])。流音・接近音 /l/, /ɽ/, /j/, /ʋ/ が後続する時、後続する音は無声音化する ([pɽ̊] etc.)。
前声門化破裂音は帯気しない。前声門化破裂音の実際の発音は方言や年代によって様々であり、入破音 ([ɓ], [ɗ], [ɠ]) や放出音 ([pʼ], [tʼ], [kʼ]) に近いような音にもなり得る。
/ð/ は歯間〜歯接近音 [ð̪͆˕ ~ ð̞] である。
/ɽ/ は前後の環境により実際の発音が変わり、また前後の子音の発音を変えることもある。
- /d/, /t/, /ʔ͡t/, /n/, /l/, /ɬ/ の前ではそり舌接近音 [ɻ] となり、各歯茎音も調音位置が同化して [ɻɖ], [ɻʈ], [ɻʔ͡ʈ], [ɻɳ], [ɻɭ], [ɻɭ̝̊] のようになる。
- 後に /s/, /z/ があるとき、同化してそれぞれ [ɽʂ], [ɽʐ] となる。
- /ɬɽ/ は [ɭ̝̊ɽ] のようになる。
- /ɪ/, /iː/ に挟まれた環境では /ɽ/ は歯茎はじき音 [ɾ] のようになる。
/x/ は実際は前部軟口蓋〜口蓋垂の間で変動する。[x̟ ~ χ]
母音
単母音
\ | 前舌 | 中舌 | 後舌 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
非円唇 | 円唇 | ||||||
tense | lax | tense | lax | lax | tense | lax | |
狭 | iː | ɪ | yː | ʏ | uː | ʊ | |
半狭 | eː | e | øː | oː | |||
曖昧 | (ə) | ||||||
半広 | ɛː | ɛ | œ | ɐ | ɔ | ||
広 | ɑː |
\ | 前舌 | 後舌 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
非円唇 | 円唇 | |||||
tense | lax | tense | lax | tense | lax | |
狭 | ẽː | ẽ | ø̃ː | õː | ||
曖昧 | (ə̃) | |||||
広 | ɛ̃ː | ɛ̃ | œ̃ | ɔ̃ː | ɔ̃ |
二重母音
\ | 終点 | |||
---|---|---|---|---|
ɪ | ʏ | ʊ | ||
始点 | 半広 | ɛɪ̯ | œʏ̯ | |
広 | aɪ̯ | ɑʊ̯ |
説明
ヴェッセンズラン語の母音には tense と lax と呼ばれる区別があり、lax 母音は別の母音や単語末に来ることはできない。ただし、曖昧母音の /ə/ に限っては語末に来ることができる。
二重母音は全て tense 母音である。
/ɛː/ は実際は [ɛæ̯] のような発音である。
/eː/ は実際は [eː] ~ [ei̯] のような発音である。
/oː/ は実際は [oː] ~ [ou̯] のような発音である。
/øː/ は実際は [øː] ~ [øy̯] のような発音である。
/ə/ はアクセントの無い音節で /e(ː)/, /ɛ(ː)/ の異音 (allophone) として現れ、実際の音声は [ɘ] ~ [ɤ̟] である。
対応する鼻母音も同様。
丁寧な発話では、/ɔ̃ː/ と /õː/ はアクセントが置かれた音節でのみ区別される。アクセントの無い場合、またくだけた会話の場合はアクセントの有無に拘わらず区別されない。